物語がはじまりそう
彼女がそう言った。僕はひと呼吸置き、静かにカメラを構える。
とある日曜の昼下がり、都会のローカル線と呼ばれる某路線に僕らは居た。
戦前生まれの駅構内は昼間でも薄暗い。
古い建物の床や壁は黒ずんで、天井の梁にはツバメが巣をつくっている。少し前までは珍しくもない光景だったかもしれない。
駅を利用する客は近所の主婦や子ども、僕らのような観光(?)めいた目的などが見てとれて都心とはやや毛色が異なる空気があたりを包む。
君は気の向くままにファインダーをのぞき、シャッターを切る。
狭い路地の隙間からかすかな光が漏れ、吸い込まれる視線の先には瑞々しい緑が顔をのぞかせる。影の世界は今日も湿った空気で満ちている。わずかに鈍い白を感じる。じっとり、深い黒がある。
手招かれるように、光のほうへ足を踏み出す。
何か見つけたような君の表情。
ひょっとしたらありふれた何かかもしれない。見慣れた色かもしれない。
高架下の居住区、どんな住人がどんな思いでそこに暮らし、どこへ行ってしまったのか。
僕は今、一人の傍観者だ。物語の中心には君がいる。
望んだままに世界への扉は開かれる。
ただひとりの僕、ただひとりの君に。
モノローグ風に書いてみました。
ちと恥ずかしい。笑